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(物語)暴言祭と正直者の最初の嘘

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 私の住んでいた村には

とんでもなく正直な男がいた。


 醜い顔の者には醜いと

言い、貧乏な者には

貧乏と言い、無知な者には

分かりやすいように馬鹿だと

すぐに口に出して言った。

 


 村で一番の嫌われ者だったが、

正直で面白い奴だと一部では

人気もあり、祭りの時は

彼が内容を考えて、仕切る

仕事をしていた。


 祭りはいつも大盛況で

日常のつまらぬ悩みはすべて

吹き飛んだ。

 

 

 特に、暴言祭なるものが

好評で伝統行事となりつつある。


「お前は馬鹿だ」

 

「そんなこと言える人間か貴様は」

 

「この村はどいつもこいつも

ろくな奴がいないな」

 


 この日だけは、皆が暴言を

口に出して言っていいので

祭りでなければ災害ものだが、

翌日には持ちこさないという

厳格な掟もあった。

 


 正直すぎる男は、おじさんと

呼ばれる年齢まで正直で

い続けた。


 私は、彼から相談を受けた。


「そろそろ、俺も年を取ったようだ。

正直でいるのも疲れてきた」


 「お前はそれでいいんじゃないか。

みんな知っている事だ。」


 「違うんだ。正直でいると

嘘をつきたい時につけないだろう?

これが疲れるんだよ」


 「もとからの性格じゃなかったのか、

てっきり嘘をつけない奴なのかと

思っていた。」

 

 


 「嘘をつくのは好きじゃない。

例え、人を傷つけたとしてもな。

真実こそ一番大切なものなんだ。」


 「では、なぜ疲れる?」


 「嘘を吐きたくなって来たんだ。」

 


 その後、彼の話す内容を

理解した私は、村の長に

伝えた。

 


 「あんなに正直だった男が

嘘を吐きたいと言うのか。

不穏な予兆がするな、今年の

暴言祭は取り止めよう。

あいつが仕切っておるからな。」


 「代わりの祭りはどうします?」


 「正直者祭りにしよう。

伝統も受け継ぐ事ができる。」

 


 そうして、今年の夏は

正直者祭りが開催された。


 皆が正直になって

いい日である。


 しかし、祭りは暴言祭の

ように盛り上がらない。


 「この祭りは面白くないな」

 「そうだよ、暴言祭をやってくれ」


 「おい、なんでいつもと違うんだ」

 「村の伝統行事はどうした」

 


 盛り上げようとする祭祀役は

言った。「みなさん正直になっていいんですよ」

 

 「つまらない祭りだ」

集まった人々は答えた。

 


 広場の中央には、祭り用の

塔が立てられている。


 祭りの炎を持つ者たちは、

突然、持ち場をはなれてうろうろと

し始めた。


 騒然となる祭りの会場。

しばらくすると、炎を持つ者たちが

中央に集まり、塔が照らし出される。

 


 皆が注目するなか、塔に人が

乗っているのが見えた。


 「誰だあいつ」

 「正直で有名なあいつだよ、あいつ」

 「おい、なんで暴言祭をやらないんだ。

  祭りをやらないお前なんて、ただの

  嫌われ者だぞ」

 

 一同、大ブーイングの中、

男は大声で宣言した。

 

 「暴言祭をやめるのは嘘だ。

お前らは、楽しい祭りも自分たちで

出来ない、ばかやろう共だ。」

 

 更に大ブーイングが送られる。

 

 「あいつ、ついに嘘吐きやがった」

 「裏切りやがったな、このやろう」

 

 こうして、塔から男が引き降ろされ

本当の祭りが始まったのだった。

 


 正直者の大掛かりな嘘に

騙されて、普段は大人しい者まで

暴言を吐きはじめた。


 「ずっと思ってたけど、

正直を言い訳にして私のことブスって

言わないでくれる?」


 「お前に金貸したけど、

俺だって貧乏なんだよ、返ってこなかったら

八つ裂きにしてたぞ」


 「ぼくの事、ばかっていつも

言ってるよね?嫌われてる君より

ましだと思うんだけど!」

 

 

 男は答えた。

「それを聞きたかったんだよ!

これぞ真実の祭典だ。

よし、暴言祭の始まりだ!」


 そうして、男は殴られつつ

祭りを楽しみ、みんな

暴言を思う存分に吐き出した。

 


 私が、正直男 ー今は嘘つき男と

呼ばれているがー と目論んだ

祭りの計画は成功し

村の長は、苦い顔をしつつも

祭りの後継者を育てていく事を

約束してくれた。

 


 余談だが、あの祭りで

あいつはだいぶ殴られたらしい。

笑って楽しんでいたから本望

なのだろう。

 

 次回は村の神輿を

ぶつけ合う、ケンカ祭りを

やろうと意気込んでいたが

 

「俺はお前に疲れているよ、

他の人とやってくれ」と正直に

伝えた。


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※この物語は創作です